遺言で各相続人の取得する財産が具体的に特定されている場合は、遺産分割協議は不要ですが、遺言で取得財産が包括的に定められている場合(例:長男に2分の1、次男に2分の1)や、遺言がなく法定相続による場合などは、遺産分割協議によって、誰がどの財産をどれだけ取得するかを協議し、財産を分けることになります。
遺産分割の方法は、次のとおりいくつかあり、誰が、どの財産を、どれだけ、どの方法により取得するかは、相続人全員の協議により自由に決めることができます。
しかし、裁判外での協議や家庭裁判所での調停手続で話し合いがまとまらない場合は、審判手続によって遺産を分割することになり、この審判手続による場合は原則として各相続人の法定相続分割合にしたがった分割がなされることになります。
現物分割(げんぶつぶんかつ)
あの土地は長男に、あの建物は長女に、預貯金と有価証券は次男に、山林は長男2分の1次男2分の1割合で・・・といったように遺産そのものを現物で分ける方法です。
現物分割では、各相続人の相続分きっかりに分けることは難しく、相続人間の取得格差が大きいときは、一部の資産を売却するなどして、その格差を売却代金で調整したり、自己資金で調整(代償分割)したりします。
換価分割(かんかぶんかつ)
遺産を売却してお金に代えた上で、その金銭を分ける方法です。現物分割では、遺産を各相続人の相続分どおりに分けることは難しいため、各相続人の法定相続分きっかりに遺産を分割したい場合などにこの方法をとります。
但し、この場合は、遺産を処分しますので、処分費用や譲渡取得税などを考慮する必要があります。
代償分割(だいしょうぶんかつ)
遺産の土地建物を長男が取得する代わりに、次男に300万円、三男に200万円支払う・・・といったように、相続分以上の財産を取得する代償として他の相続人に自己の財産(金銭等)を交付する方法です。
遺産分割協議書
被相続人 鈴木 浩三(平成23年6月19日死亡)
相続人 鈴木 洋子 (昭和18年7月27日生)
被相続人鈴木浩三の遺産につき、共同相続人鈴木洋子、鈴木一郎、鈴木二郎は遺産分割協議の結果、被相続人の遺産を次のとおり分割した。
1.相続人鈴木洋子は、次の遺産を取得する。
(2)所 在 千代田区神田4丁目4番地
(3)上記家屋内の家財・家具・現金その他一切の財産
(4)りそな銀行千代田支店 普通預金 口座番号123456
(5)利付(割引)国庫債券10年(第○○回) 額面金額500万円
2.相続人鈴木一郎は、次の遺産を取得する。
(1)みずほ銀行千代田支店 普通預金 口座番号765432
(2)株式会社太平洋セメント 普通株式 1000株
3.相続人鈴木二郎は、次の遺産を取得する。
(1)株式会社三井住友銀行銀座支店 普通預金 口座番号67893
4.鈴木家の祭祀は、長男鈴木一郎が承継する。
5.共同相続人鈴木洋子、鈴木一郎、鈴木二郎は、共同して、次の不動産を売却し、その売却代金から売却に要する一切の費用を控除した残額を鈴木洋子2分の1、鈴木一郎4分の1、鈴木二郎4分の1の割合に従って取得する。
(1)所 在 千代田区神田3丁目
6.共同相続人鈴木洋子、鈴木一郎、鈴木二郎は、被相続人に係る葬儀費用150万円について、鈴木洋子が90万円、鈴木一郎が30万円、鈴木二郎が30万円をそれぞれ負担する旨合意した。
本遺産分割協議の成立を証するため、本協議書3通を作成し、各自1通を保有する。
平成24年8月16日
住 所 東京都千代田区神田4丁目14番3号
住 所 東京都千代田区神田3丁目24番16号
住 所 東京都杉並区荻窪5丁目33番26号 |
遺産分割は「誰が」「何を」「どのような割合で」「どのように分けるか」という手順により進めます。
1.遺言の有無を調査する
自筆証書遺言であればすみやかに検認手続を行う。
公証人役場において被相続人作成による遺言がないか検索する。
(公正証書遺言検索サービス・全国のどの公証人役場でも検索できます)
2.相続人の範囲を確定する。・・相続関係説明図の作成
被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本により法定相続人を確定する。
3.各相続人の相続分を確定する
相続分算定において注意すべき事項
代襲相続人がいる場合
二重の身分を有する相続人(孫と養子など)がいる場合
排除・欠格者がいる場合
非嫡出子がいる場合
半血の兄弟がいる場合
相続放棄者がいる場合
特別受益者がいる場合
寄与分権者がいる場合
4.遺産の範囲を確定・・・財産目録の作成
債務の調査(信用情報機関等)
各金融機関への預金照会
郵便局への預金照会
各市区町村の固定資産(土地・建物等)調査 など
5.遺産を「遺産分割時にできる限り接近した時点の時価」で評価する
預貯金・・残高証明書
株式・・・上場株式 分割時直近の取引相場や一定期間の平均額
非上場株式 税理士や会計士等による評価
不動産
相続税路線価、地価公示価格、基準地価、不動産会社による査定価格、隣の取引事例等を参考に時価を算定する。
当事者間で争いがある場合は不動産鑑定士による鑑定評価を検討する。
6.各相続人の具体的な相続分を算出する
特別受益や寄与分の検討
7.遺産分割方法を協議・決定・・・遺産分割協議書の作成
各分割案に基づく相続税の検討
2次相続の際の相続税の検討
現物分割・換価分割・代償分割等の分割方法の検討
8.遺産分割協議書を作成し、各相続人がこれに署名・押印する
協議書に各相続人が署名し、実印を押印する。印鑑証明書を各1通添付する。
9.協議内容に基づき、各遺産の名義変更や遺産の売却等を行う
預金口座の払い戻し・・各金融機関
株式の名義書き換え・・証券会社
自動車の名義変更・・・陸運事務局
生命保険金の受領・・・生命保険会社
不動産の名義変更・・・各管轄法務局
その他、土地の分筆、測量、境界確定、売却など
遺産分割は申告期限までに確定させないと税務上不利になります。
法律上は、いつまでに遺産分割協議をしなければならないという期限はありません。
しかし、税務上は分割を確定させないと受けることができない税務上の軽減規定がありますので(申告期限から3年以内に分割を確定させれば遡って適用可)、相続開始から10ヶ月以内(遅くとも3年以内)には、遺産分割協議を確定させたほうが相続税が低くなります。
以下に、分割協議を確定させないと受けることができない制度をご説明します。
(1)配偶者の税額軽減
配偶者には税額軽減規定があり、相続した財産が「配偶者の法定相続分まで」または「1億6000万円まで」は課税されません。しかし、遺産分割が未了の状態ではこの軽減を受けることはできません。
(2)小規模宅地の評価減
土地を相続する場合には、一定の要件のもと、居住用では240u、事業用では400uまで、評価額を50%〜80%減額できるという制度があります。
この規定も、未分割の状態では受けることができません。
(3)その他、以下のような制度も未分割では適用されません。
・非上場株式についての相続税の納税猶予
・農地等の相続税の納税猶予
・物納(未分割財産は物納できません。)など
相続税をできるだけ低くするためにも、円満な親族関係を維持するためにも、また多大な訴訟費用と長い時間を浪費しないためにも・・・遺産分割は、なるべく申告期限までに(遅くとも3年以内に)相続人間の話し合いで解決したいものです。
※相続人のうちに行方不明者がいる場合
共同相続人のうちに行方不明者がいる場合は、まず家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立をします。裁判所により不在者財産管理人が選任されると、その管理人と他の相続人で遺産分割協議案を作成し、その協議案につき家庭裁判所の許可を得た上で遺産を分割することができます。
遺産分割後の相続登記はお早めに
遺産分割協議により、ある不動産を法定相続分と違う割合(単独で取得など)で取得した場合、その分割協議による権利取得を第三者に主張(対抗)するためには相続登記をしていることが必要となります。
もし、相続登記をしないでいるうちに、他の相続人の債権者により差押等がなされると、自己の法定相続分以外の部分を取得できなくなる可能性もあります。遺産分割協議が成立したら、早めに相続登記手続をすることをお勧めします。
最判昭46・1・26
相続財産中の不動産につき、遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産に権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができない。
遺産分割の話し合いがこじれて調停・審判になった場合、通常は、解決までに遺産の10%〜20%の費用と約1年〜3年の期間がかかります。
また、審判後の親族の関係は断絶することが多く、審判の結果も節税を考慮しない、単に法定相続分に応じた分配となることがほとんどですので、話し合いによる分割協議と比べた場合その経済的損失は多大なものとなります。
結果、「意地を張らずに、初めから法定相続分で分けておけばよかった・・・」と後悔する方も多くいらっしゃいます。
家族の絆と大切な財産を守るためにも、遺言書の作成や相続人間の譲り合う心が大切だと思います。
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